これが日常

またしても、今吉さんと花宮で。
今吉さんのが何枚も上手。

「アイしとるよ」

囁かれて触れるだけのキス。
間近で交錯する視線に背筋が震えた。

「あ……」

何か言おうと開いた唇を再び塞がれる。

――♪

胸ポケットにいれてある携帯電話が鳴った。
ザッと血の気が引く。
この音は。

「…………」

くっ、と笑ってキスから解放された。

「電話えぇの？」
「え、あ……」

これは罠。
わかっているのに、言われるままに取り出した携帯電話の通話ボタンを押した。

「何の、用だよ」

声が震えそうになる。
唇を噛んで低く吐き出す呼気。
不意に、手から携帯電話が抜かれた。

「あ？」
「あー、どちらさん？　悪いんやけど後にしてくれんかなぁ。今、取り込み中なんやわ」

ピッ、と切られる通話。
呆然と僅かに高い瞳を見つめた。
糸のように細い目が、にんまりと弧を描いている。

「な、にすんだよてめぇっ」
「んー？　せやかて、取り込み中なんは嘘やないやろ」

するり、と頬に触れる体温の高い掌。
レロ……、と下唇をなぞられて劣情がぶり返した。
咽喉仏を指先で撫でられ、傾けた顔の分だけ下になった瞳の奥に揺れる熱に皮肉気に口元を歪める。

「本当、堪え性がねぇな」
「そんなん、お互い様やろ」

取られたままの携帯電話を奪い返して画面を見た。
ご丁寧にも電源ごと落とされている。
役立たずになった携帯電話を元通りにポケットに押し込むと艶やかな黒髪に口づけをした。



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